カベジマ研究所2

Legasyswareのゲーム開発と日常をゆるく適当に綴っていくブログ

居ない


居ない。
もう居ない。


残ったもの。
首輪。
食器。
お気に入りのブランケット。
開封のカンヅメ・トイレの砂・シャンプータオル。


父親が胃がんで入院して、ほぼ同時に母親がくも膜下出血で倒れ、
・・・手術が無事成功して、退院してきた時に貰ってきた猫。


まだ後遺症の残る母の心の癒しにもなるだろうと父親と姉が
新聞広告を見て電話して・・・連れ帰ってきた。


あちらのお宅で父親が「トラ猫がいい」と駄々をこねた為に、
紙袋から出てきたのは・・・生まれたばかりの子猫ではなく、
子猫と呼ぶには聊か育ちすぎた生後半年の、スラっとした猫。


はしっこくて頭も良くて、連れ帰ったその日から、
まるで最初からここに居たかのように、家族になついてた。


それから・・・およそ14年間、一緒に暮らしてきた家族。
両親がまるで我が子のように可愛がっていた・・・家族。


土曜日の朝、いつにも増して容体が悪かった。
気がかりなまま出勤して、仕事終えて急いで帰って
・・・メールのチェックすらしていないことに気がつき、
玄関前でメールボックス開き真っ先に目に入ったタイトルは
「亡くなりました」だった。


暗闇の中、独り。


居ない。
もう居ない。


暫時過ぎ、家に入る・・・また暫時。奥の部屋に箱が一つ。
箱の中に手を伸ばし、母がノミ捕り櫛で毛を梳いていた。


「ノミがいっぱい出てきてねぇ・・・」


今までに無いくらい、静かに静かに、同じ光景が続いた。
もう誰も「トラは?」とは聞かなかった。


テーブルの上にはその日、お祝いの席で父が貰ってきた
松花堂弁当とお菓子。


箱の傍らにはその時に近所で貰ったのだと言う、
花が飾られていた。


一度だけ、顔を見た。眠っているようだった。


母に早く食事をとる様に促され、食卓に付いた。
青の長皿にサンマ。


事実は・・・覆せない。
そう遠くない日、いつかこんな時が来るだろう事は解っていた。


(自分にとって、決して意外な出来事ではなかったよ
でも・・・それでも、涙は止まらなかったんだよね・・・)


・・・理性と感情は別の入れ物に入っている。
サンマの骨を取り除きつつ、そう思った。


夜、静かな夜。
全ての戸はピッタリと閉まっていた。


以前は常に10cmほど隙間を開けていたのに。


居ないんだ。
もう居ないんだ。


普段よりも何時間も早く布団に入り、深夜目が覚めた。
3時17分。昨夜、粗相で起こされた時間と大体同じ。
消し忘れたLEDランプの明かりがボウっと浮かび上がっていた。


また・・・涙が溢れた。